M1 Mac ゲーム徹底ガイド

第 1 回 M1 Mac の実力

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 Apple Silicon を搭載した初の Mac である M1 Mac が発売され,各方面から注目を集めています。本連載ではゲームプラットフォームとしての M1 Mac の実力と,ゲームの導入ノウハウについて解説してまいります。まず第 1 回の今回は基礎知識として,ゲーム利用の観点から M1 Mac の実力がどれほどのものか見ていきましょう。

目次

M1 Mac はゲームの世界でもゲームチェンジャーとなり得るか

 目下業界を震撼させている M1 チップの優位性は主に CPU のコア性能と電力効率にあり,一般のアプリケーションにおいては間違いなく革新的な進歩をもたらすものです。しかし,ゲームアプリケーション,ことに最近のアクション系は 3D ものに限らずグラフィック処理に特化しているものが多いため,GPU こそがゲームの動作性能の鍵を握っています。
 残念ながら M1 チップに内蔵された GPU は素の性能では数世代前の独立型 GPU と同程度に過ぎず,ゲームを目的とするなら決して最新のハイエンドデスクトップ機やゲーミング PC に代わるものとはなり得ません。 10 年くらい前のゲームなら最高のパフォーマンスで動作するでしょうが,最新のゲームでは設定を相応に絞り込まないと快適にプレイすることは叶わないでしょう。

 しかし,メインのプロセッサーチップに内蔵された統合型 GPU としてはずは抜けたもので,今まで論外だった小型エントリー機で最新ハイスペックゲームをプレイすることを曲がりなりにも可能にするポテンシャルを持っています。かつて iMac のヒットがハイエンドゲームの裾野を広げたのと同様,誰もが追加投資なく最新ゲームを手軽にプレイできる M1 Mac の登場は,Mac に限らないゲーム業界全体の進歩に少なからぬ影響を与えることになるでしょう。
 さらに macOS 独自の Metal API による CPU と GPU の協調動作は,従来の GPU では困難とされる高度なシェーディング処理やエフェクト処理に有利に働きます。また,ユニファイドメモリーによる高能率なメモリー共有化により,ハイエンド GPU でなければ扱えないような大容量のテクスチャーデータを最小限のオーバーヘッドで扱うことが可能で,特にテクスチャーリッチなゲームにおいて映像的な表現力に優れたものとなっています。

Shadow of the Tomb Raider
ハイスペックなゲームを快適にプレイするには設定を絞り込む必要がある(画面は Shadow of the Tomb Raider を解像度 1280×800 に設定した場合のベンチマーク)。ユニファイドメモリーにより VRAM を大きく確保できるため,テクスチャー品質を最大にしても動作速度に影響しない点には注目したい。

CPU と Rosetta 驚異のメカニズム

 グラフィック主体のアクション系ゲームの性能は GPU によってほぼ決まってきますが,シミュレーション系ゲームの場合は事情が違います。シミュレーションは画面に現れない内部処理の占める割合が大きくなるため,CPU の性能が大きく効いてくるからです。M1 チップの CPU はデスクトップの上位機種と比較しても遜色のないことは各種ベンチマークにより実証されており,相対的には GPU 負荷の高いゲームよりも CPU 負荷の高いゲームの方が余裕を持って処理できる特性を持っています。
 これは Intel Mac 用に作られたネイティブ化されていない従来のゲームでも同様です。Intel 用のゲームは Rosetta 2 という OS 内蔵の互換機能を介して動作しますが,Rosetta によって変換されたプログラムコードには多少の性能ロスがどうしても発生します。しかし,M1 チップの CPU 性能はそれを補って余りあるもので,プロセッサーの違いごときで従来機に対する優位性が揺らぐことはありません。

 CPU ベンチマークはマルチコア性能ばかりに目が向けられがちですが,マルチコア性能は持続的な高負荷処理に効いてくる要素なのに対し,シングルコア性能は操作へのレスポンスや処理の瞬発力に寄与します。M1 チップのシングルコア性能はパソコン用としては比類のないもので,最新のハイエンドのデスクトップ機すら凌駕するものです。FPS 表示やストップウォッチでは見えてこない動作の軽快さは,M1 Mac でゲームをプレイした時の快適さとしても実感できるでしょう。
 M1 Mac の軽快さはプロセッサーの性能だけでなく,メモリーや SSD など周辺回路の性能による部分も大きいと思います。特にユニファイドメモリーや SSD 性能の大幅な向上は,画面モード切替の俊敏さやゲームのロード時間の短縮に大きく貢献し,待つことが当たり前だったパソコンゲームの常識を変えつつあります。
 ラップトップ機を使っている方なら,ちょっとした空き時間でゲームをやろうと起動しても,ロードが終わる頃には休憩時間が終わってしまったり目的地に着いてしまったりといった馬鹿馬鹿しい経験をしたこともあるでしょう。M1 Mac なら遊びの時間ですら無駄にすることはありません。

Cities: Skylines
M1 チップの CPU は,既存の Intel Mac 用に作られたゲームでも従来機より高速に動作させられるだけの能力を有する(画面は都市建設シミュレーションの新鋭 Cities: Skylines)。従来機では処理の重さに悩まされていた巨大都市でも,ゲームの進行がスローダウンすることなく快適にプレイを続けられる。

M1 の真価は省電力性にあり

 M1 Mac の優越性は性能面だけでなく,省電力性にも特筆すべきものがあります。特に MacBook Air/Pro の場合は,大幅に向上したバッテリー持続力が注目されます。
 従来のラップトップ機では最新ゲームをフルスペックで動作させれば 1 時間程度でバッテリーが底を尽き,外出先や車内でゲームを楽しむという利用スタイルは現実的ではありませんでした。M1 Mac でも通常に比べてバッテリー持続力が極端に低下することに変わりありませんが,どんなに負荷の高いゲームをプレイしても 2〜3 時間は余裕で持ち,グラフィック設定を工夫すればさらに長時間の連続プレイが可能です。最新のハイスペックゲームをモバイル環境でプレイするという,今まで性能面でも電力面でも無謀だった利用形態は,M1 MacBook Air/Pro の登場により初めて現実的なものになったと言えます。
 またゲームの動作による発熱やそれに伴う冷却ファンの動作音は,パソコンゲームにおける長年の悩みの種でした。静寂なシーンで冷却ファンがけたたましく鳴り出せば興醒めも良いところですが,M1 Mac ならばゲームが動けば当然のように鳴り響いてた冷却ファンに悩まされることはもうありません。

 M1 Mac が本領を発揮するのはハイスペックなゲームだけではありません。むしろ処理負荷の低いカジュアルなゲームでこそ,M1 Mac の優越性が際立ちます。M1 チップの CPU は負荷の低い処理は電力効率の良い高効率コアに優先的に割り当てられ,極めて低い消費電力で軽快な動作が可能となるからです。
 そのような低負荷なカジュアル系ゲームは,MacBook Air/Pro においては長時間に渡って快適にプレイできるのは大きな利点です。Mac mini などバッテリーに依存しない場合でも,仕事の片手間に放置プレイやながらプレイをしたとしてエンコードやファイル変換などの高負荷処理を妨げないという利点があります。M1 Mac はゲームの分野においても新たな「遊び方改革」をもたらすものになるでしょう。

X-Plane 11
従来の MacBook Air では全く実用にならなかったフライトシミュレーターも M1 Mac なら快適に動作する(画面はプロ仕様の本格フライトシミュレーター X-Plane 11)。充電なしでも国内線の往復くらいなら余裕で飛行でき,冷却ファンがジェット音よりうるさく鳴り響くこともない。5 GB 以上の巨大なテクスチャーデータを扱ってもビクともしないのは流石。

次回予告

 次回は M1 Mac で動作するゲームにはどんなものがあるのか,意外と幅広い選択肢の一端を見ていきたいと思います。今後のサイト更新や Mac ゲーム情報のチェックは公式 Twitter をフォローして下さい。本稿や Mac ゲームに関するお問合わせやご意見もこちらでどうぞ(必ずしも全てのお問合せにお答えできるわけではありません)。

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